サナちゃん達の学年は、広大な海を臨む海浜公園へのピクニックでした。雲ひとつない天気、まさに快晴。校長先生の話を聞いて自由行動になると、みんな一斉に海岸に走っていきました。ズボンをまくって、あるいはスカートを上げて、打ち寄せる波の先端で、ワイワイキャアキャアやっています。
2組の菅原先生が笛を吹きました。お昼の合図です。サナちゃんはスキップしながら、リュックサックを置いてきたところへ戻りました。カラフルなレジャーシートの上に、マスミちゃんとユカリちゃん、シズちゃん、ミキちゃん、そしてサナちゃん。レジャーシートの四隅に靴を置いて、さあ、いただきます。
サナちゃんはうきうきしていました。遠足の2週間前から、お母さんに「サンドイッチを作ってね!」とお願いしておいたのです。こじんまりとしたバスケットを取り出し蓋を開けると、ひと口サイズに切ってあるサンドイッチが、ぎっしり。
「わぁ、いいなあ!」
「サンドイッチだあ!」
「私のウインナーと1コ交換しない?」
「私の卵焼きと1コ交換しない?」
可愛い声に混じって、しゃがれて下品な声がしました。
「オジさんのダンボールと全部交換しなァい?」
ホームレスでした。3組の西本先生がそれに気づき、背後から思いっきり踵落としを浴びせると、ホームレスは動かなくなりました。
ニコニコ顔でサンドイッチを覗き込むサナちゃん…急に表情が強張りました。パセリです。サナちゃんのだいきらいなパセリが入っていたのです。あれほどお母さんに「パセリは入れちゃだめよ!」と言っておいたのに。
お母さんは優しいけれど、食べ物を残すととっても怒ります。
「食べ物を粗末にしたら、バチが当たりますよ!」
そして、残した食べ物を食べるまでは解放してくれないのです。サナちゃんは頭を掻きむしりました。
「パセリ、だいっきらい! いや! いや! いやよいやよいやー!」
マスミちゃんもユカリちゃんもシズちゃんもミキちゃんも、みんなパセリがだいきらい。サナちゃんのバスケットを覗き込み、真ん中に大きなパセリが乗っているのを見ると、みんな顔を引っ込めました。
「残せばいいじゃない?」
「ダメよ! お母さんが怒るもの!」
サナちゃんは今にも泣きそうです。
「捨てちゃえば?」
「ダメよ! 食べ物を粗末にするとバチが当たるって、お母さんが言ってたもの!」
みんな考え込んでしまいました。
「う、う~ん…」
さっきのホームレスがうめいています。生きてたんだ。
「ねぇ、あのオジさんにあげちゃえば?」
「そうね、それがいい。」
「…うーん。そうする。」
他にいい案が浮かばないので、サナちゃんはしぶしぶホームレスに声をかけました。
「オジさんオジさん、これ、あげる。」
サナちゃんはホームレスにパセリを手渡しました。
「なんでぇ、パセリか。シケたガキだな。」
むっくりと起き上がり、ぶつくさ文句を言いながら立ち去るホームレス。
「こんなもん、いらねーや!」
彼が砂浜にパセリを放り投げた瞬間、空から稲妻が落ちてきてホームレスを直撃しました。

2002/03/19
Comments by 上埜 ヒデユキ